もつ鍋とモツ(ホルモン)
もつ鍋人気にちょっと驚いています。
一時期あちこちにもつ鍋屋が乱立しましたが、一過性のブームの例に漏れずしばらくすると姿を消しました。と思っていたんですが、相変わらずもつ鍋専門の店をよく見かけますし、大手ネットショップでもダントツ人気の様子です。
BSE問題は完全に解決したわけではありませんので、ここらあたりにマスコミ報道の頻出度により左右されやすい現代人の姿が浮き彫りになっている気がします。煽られれば消え、治まると火がともる、蝋燭ですなまるで。
しかし本当はもつ料理そのものが一過性のブームではなく、庶民に昔から愛され続けていたものだから人気が途切れないのだと思います。
『もつ鍋』自体は九州博多の郷土料理なのですが、類する関西の「ホルモン鍋」は元々知名度が高く、最初は「もつ鍋」とはこの関西のものを指していると思っていた人がかなり多いし今でもいますね。
『もつ煮』にいたっては全国各地でそれぞれ独特のやり方が昔からありまして、関東の「煮込み」(もつ煮込み)、中部の「どて」(土手煮)、関西の「てっちゃん」はお馴染です。(あのへんの方は昔から「とんちゃん」とも呼んで親しんでいます)最近は沖縄の「中身汁」も知られるようになっています。(これは汁ですが)
もつ鍋における「もつ」は牛豚の白もつ(腸)を指していますが、ホルモンやもつとは、広義には鳥獣肉全般の臓物(内臓)を指した言葉です。
動物の内臓は特にビタミンのAやB群が豊富ですので、肉食動物はまず内臓から食べてビタミンを補給している事が知られています。鉄分等ミネラルも多いですね。
したがってそれに習った人類も動物の内臓を黎明期から食べていたに違いありません。全世界にもつ料理はありましょうし、アメリカでは黒人達の「ソウルフード」としてよく知られています。
東京の「煮込み」のルーツは『ももんじ屋』あたりでしょうか。肉食禁止(肉食忌避)の江戸期まで日本人はおおっぴらに肉は食べれなかったものです。
それでも猟師はいましたし、好事家もいれば、薬膳としての民間療法に効果を信じている庶民もいました。そんな需要を満たしたのが半ば公然と、しかし密やかに肉を食べさせる、「ももんじ屋」です。
紅葉(鹿肉)、山鯨・牡丹(猪肉)、桜・けとばし(馬肉)、こうした符丁が残っているのもその名残りかもしれません。
野生の鳥獣肉に比べ豚や牛を食する歴史は浅く、沖縄などを除いて本格的に食べ始めたのは明治以降になります。
そのせいかモツ類の名、例えばハツ、レバー、タン、ガツ、これらはそのまま英語からきています。ちなみにミノ(牛第一胃)は蓑笠、ヒモ(牛小腸)、ハチノス(牛第二胃)、センマイ(牛第三胃)はその形から、シマチョウ(牛大腸)は縞模様から、ギアラ(牛第四胃)は「偽腹」が訛ったもの。
こうしたものが広く食べられるようになったのは第二次大戦後になってからと言っていいでしょう。
いずれにしましてもモツは市場のセリを通さぬ習慣があり、結果として安価ですので、今の時代にマッチした非常に良い料理なのかも知れませんね。