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鹿児島県のあく巻き

鹿児島料理の特徴

日本列島の南端に位置する鹿児島の料理には、他の地域とは異なった特徴がみられます。

幕府の潜在的な敵であった島津家は、当然ながら大変用心深い対外政策が必要ですから、「日本側」の国境を強固にし、その結果なのでしょうか、文化面でも他の国(藩)とは面白い差異があるのです。

「外交政策」として意図的に複雑で分かりづらくしたという説がある難解な薩摩方言だけではなく、食文化にも独自性があります。

日本酒の蔵が皆無で、圧倒的な「焼酎王国」である事、豚の料理が多い事などですが、これは北の国境が閉鎖的な反面、広大な南の玄関口を持っていた強みで、東南アジア方面、特に琉球との交流が深かった証左でもあると思います。

琉球との食文化類似~背景に見えるのは漁師料理と黒潮

「あぐー豚><薩摩黒豚 」
「唐芋><薩摩芋」
「泡盛><薩摩焼酎」
「チキアゲ><薩摩あげ」

沖縄との類似ですが、豚料理の他に「薩摩いも」と「薩摩揚げ」にもよく現れています。甘藷(サツマイモ)は元々新大陸原産で東南アジア、中国を経由して沖縄に伝わった『唐芋』です。

それが九州に伝播し、『琉球芋』と称されるんですが、さらに本州に伝わる過程で『薩摩芋』と呼ばれる様になりました。和食では薩摩藩の家紋からこの芋を「丸十」(まるじゅう)と呼んだりもします。

そして「てんぷら」「はんぺん」など地方で呼び名が色々な『さつまあげ』ですが、地元では「つきあげ」と呼んでおり、沖縄では「チキアゲ」と呼びます。

これは共通して「付け揚げ」の意です。宇和島のハランボを使う「じゃこ天」とは由来が異なり、異説はありますがやはり沖縄の「チキアゲ」がさつま揚げの原型でしょう。

面白いと思うのは宇和島に『さつま』という料理がある事です。この『さつま』は宮崎では『冷や汁』として名物になっていますが、薩摩の漁師が黒潮沿いに伝えたもので、焼き魚味噌を豆腐で摺り流し冷やした汁を麦飯にかけて食べるというもの。

なぜ面白いのか言えばその漁師料理の伝播の仕方ですね。黒潮の流れにそって北上しています。

これは「土佐たたき」も同じでやはり薩摩から。 薩摩漁師の料理であった「やっぎぃ(焼き切り)」が伝わったものという説があります。

「じゃこ天」は宇和島藩の初代藩主が京都から技法を学んだとされますが、宇和島の「じゃこ天」に「さつま揚げ」。この漁師伝播ルートにも何かありそうな気がするじゃありませんか。

ついでに、冷や汁に酷似した大分の漁師料理である『あつめし』は、別名「りゅうきゅう」と呼ばれます。

薩摩料理の灰汁(アク)

「酒すし」なる鹿児島の郷土料理があります。
薩摩藩島津家に伝わる400年来の伝統を持つとされる酢は使わぬ「なれ鮨」の一種で、酒で発酵させる寿司ですね。

この料理に使う酒は薩摩にしては珍しい「日本酒」です。しかしながら普通の日本酒ではありません。神酒のひとつ黒酒(くろき)を使います。

これはいわゆる灰持酒(あくもちざけ/灰汁持ち酒)で、醸造もろみに灰を加えて作る日本酒です。これを地酒(じざけ・じしゅ)といいます。

灰持酒:
鹿児島→地酒
熊本→赤酒
島根→地伝酒
など。
飲む酒というよりも味醂ふうに高度な調味料として使う事が多いです。

この灰汁地酒に塩を足した調味液で作るのが「酒ずし」です。

そしてもうひとつ、地元鹿児島(奄美含む)で『ちまき』と呼ばれている【灰汁巻き】 これもやはり灰汁を使うのが特徴です。もち米を灰汁に漬けておくんですね。 同じようにアクに一晩漬けておいた竹の皮でもち米を包んで糸で縛り、灰汁で半日ほど炊くという調理法。

灰汁巻きは鹿児島だけでなく、南九州一帯で作られている他、山形県でも作られています。 しかし、山形の灰汁巻きも薩摩から伝わったものだし、この料理(菓子)は明らかに完全なる薩摩のオリジナルと言えそうです。琉球経由の渡来である形跡もありません。(ちまき自体は中国渡来ですが、灰汁巻きは原点が異なります)

どうやら戦国時代あたりには出来ていたようで、秀吉による朝鮮出兵の時は薩摩武士の兵糧だったと云います。考え様によっては「梅干し」「味噌」以上に優れた兵糧ですからね。これだけあれば腹を満たせて飢えを防げるわけですから。

灰汁のアルカリ成分はアク抜きなどに有用しますが、ここでは主に細菌の繁殖を防ぐという目的が大きい様に思います。 とにかく優れた保存食であり、これが薩摩兵士の強さを支えていた側面が伺えます。

食文化に類似点が多い沖縄でも灰汁を使った「沖縄そば」がある様に、暑い南方での腐敗防止を兼ねているって事ですかね。

お味の方ですが、これだけ灰汁を使ってますから、最初はえぐみが気になります。(手作りの場合です。市販品はえぐみは殆どありません)
湯炊きしたモチですので、これ自体に味はありません。モチと同じく他の調味料を付け掛けして食べます。

調味料はお好み次第で何でもアリです。きな粉に砂糖を加えた粉が相性が良い感じですが、面白いことに「わさび醤油」でも美味しく食べらます。

熱々でも美味いし、冷やしても美味しいです。
食べ慣れてしまうと、クセになってしまう食感。
不思議なことに、灰汁のエグミが好印象となって記憶に残ってしまうのですよ。

自分はこれを作って、和食のコース料理に加えることがよくありました。献立には「甘味灰」とか適当に書いておく。召し上がったお客さんが「これは鹿児島の灰汁巻きだね」と仰る確率はゼロに近かったです。

鹿児島県か南九州の出身でなきゃ無理のようですね。それだけ、ヨソに広まっていない郷土料理なんです。

他の郷土料理と同じく、作り手がどんどん減っていき、一時は消えてしまうのでないかと心配しておりましたけども、最近は復活に力を入れるようになったと聞きます。

何よりもアルカリ食品なので添加物がまったく使われていない点が素晴らしいし、古くから存在するオリジナルの郷土食。絶対に消えてほしくない食べ物だと思っています。

あく巻き(灰汁巻)


あくまき 《おおすみ食品株式会社》

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